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第58回精密工学研究所シンポジウム-形状記憶合金の基礎と応用-
大変暑い8月13日に、精密工学研究所主催、日本金属学会関東支部、形状記憶合金協会、日本金属学会分科会研究会「変位型相変態を利用した構造・機能性材料研究会」共催により、形状記憶合金の利用拡大と広く学内外の方に本合金の基礎から応用までを正しく理解して頂く機会となるように、「形状記憶合金の基礎と応用」という副題の第58回精研シンポジウムを開催致しました。熱弾性型マルテンサイト変態を利用した形状記憶合金は、温度センサーを備えたアクチュエータとして台所の電化製品から人工衛星まで広く実用材料として使われる他、微小電気機械システムMEMSの駆動素子としても期待されています。さらに近年では、数%もの大きな可逆変形を示す超弾性材料が歯列矯正から血管内治療まで広く使われ、狭心症や動脈瘤治療などへも適用されつつあり、重要性が急速に増しています。このため、本シンポジウムでは、形状記憶合金を正しくかつ有効に使うために、下記の3つのトピックスを選び、その基礎から応用まで広くお話しを頂きました。
まず、最初の講演では、世界有数の本合金研究者である筑波大学大学院数理物質科学研究科 宮崎修一先生に「チタン系高温形状記憶合金の開発と題した講演を頂きました。講演では、形状記憶・超弾性合金の材料開発の流れが概観され、高温動作形状記憶合金の必要性や応用について述べられた後、Ti-Ni系とTi系の2つの高温形状記憶合金の開発状況について詳しく紹介して頂きました。特にTi-Ni系では、加工性の改善のために延性相であるNbを分散させたTi-Ni-Zr(Hf)高温形状記憶合金の開発指針やそれを実用材料につなげる方法を、また、Ti系では、加工性や脆性などの問題のない新Ti-Ta合金の開発方針と新合金の形状記憶特性、およりさらなる安定性の向上と今後の実用化の方針などのお話しを頂きました。
第二の講演では、形状記憶合金協会会長である東北大学大学院工学研究科未来医工学治療センター 山内清先生に「形状記憶合金用途経緯と新材料実用化の課題」と題した講演を頂きました。形状記憶合金の用途開発は1980年代はじめの新素材ブームに端を発し、これまでに数万件を超える商品化が検討されてきました。当初は記憶する金属 として、オモチャ、戦闘機継ぎ手、温室窓開閉などの開発事例が続々と新聞やテレビでもてはやされました。しかし、振り返ればその話題性に比較して実用化されたものは、電子レンジダンパー、エアコンルーバー、換気口、シャワー温調バルブなどその数は極めて少なく、現在でも採用の商品はメガネフレムなどに更に限定されています。言い換えれば、形状記憶合金の特徴を活かし代替機能材料の置き換えを許さないもののみが残っていると云えます。講演では、これら関して山内先生自身が触れてきた研究開発の歴史を下に、実用化のための方針や手法、特許の重要性、今後の展開などを大変わかりやすくお話しを頂きました。
第三の講演では、東北大学大学院医工学研究科 金高弘恭先生に「形状記憶合金の医療分野への応用展開」と題した講演を頂きました。Ni-Ti合金は1960年代始めに米国海軍兵器研究所で初めて見いだされ、医療分野では1980年代半ばに歯列矯正用ワイヤーとして実用化され、カテーテル、ガイドワイヤ-、ステントなど大変有用な医療用材料として様々な医療分野へ臨床応用され、その応用範囲は広がりつつあります。しかし、Ni-Ti合金は高いアレルギー性や発ガン性を有するNiを半量程度も含有するためその安全性が問題視され、医療現場ではより生体安全性の高い合金が求められています。先生の研究グループではこの点に早い段階から着目し、ニッケルを含有しない新しい生体用形状記憶合金の開発に着手し、物理化学的環境の大変厳しい口腔内での実験を手始めに、新合金を利用した各種動物実験モデルにより、生体安全性や臨床的有用性に関しする様々な検討をなされています。ご講演では、現在までのNiフリー生体用形状記憶合金の医療応用へ向けた生物学検討についてご紹介頂き、また、ステントやカテーテルガイドワイヤーなど様々な医療分野へ向けた今後の応用展開についてもご講演頂きました。
講演会は午後約3時間の予定でしたが、予定時間を超えて活発な質疑がなされました。また、お盆の最中でありましたが、西は大分や広島から、東は仙台や秋田まで日本各地から29名の熱心な参加者がお集まり下り、満席でありました。終了後は、先端材料部門材料設計研究分野のラボツアーと参加者らの懇親としてバーベキューパーティを企画したところ、引き続き大部分の方にご参加頂きました。本会の開催に当たり、遠路来て下さいました参加者の皆様、講師の先生方、ご協賛下さいました各学会の皆様、精研所長小林功郎先生・広報委員会長香川利春先生を始めとする精研関係者の皆様に篤く御礼を申し上げます。また、会場準備やBBQなどを準備してくれた当研究室の皆さんに感謝いたします。皆様どうもありがとうございました。
(文責:先端材料部門 細田秀樹)
プログラム
第58回精密工学研究所シンポジウム -形状記憶合金の基礎と応用-
主催: 東京工業大学精密工学研究所
共催: 日本金属学会関東支部
形状記憶合金協会(ASMA)
日本金属学会分科会研究会「変位型相変態を利用した構造・機能性材料研究会」
場所: 東京工業大学 すずかけ台キャンパス 大学会館2階 集会室2
日時: 2009年8月13日 木曜日 13:25-16:30
13:25 開催の挨拶 東京工業大学精密工学研究所 細田秀樹
13:30 チタン系高温形状記憶合金の開発
筑波大学 大学院数理物質科学研究科 宮崎修一
14:30 形状記憶合金用途経緯と新材料実用化の課題
東北大学 大学院工学研究科 未来医工学治療センター 山内 清
15:30 形状記憶合金の医療分野への応用展開
東北大学 大学院医工学研究科 金高弘恭
16:00 総合討議
16:30 終了
終了後、先端材料部門材料設計研究分野ラボツアーおよび懇親会
以上
★上記シンポジウムが「ばね新聞」に掲載されました。